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忘れられる、キスを
第28章 警戒
交代で風呂に入り、ベッドにもぐりこむ頃には一時になろうとしていた。
もぞもぞとベッドの左側に身体を動かしていた先輩が、あ、と小さな声を上げた。

「朝ごはんのおかずとか何も買ってない…」

和食、って言ってたのに…と申し訳なさそうな顔をする。

「あれは伊東さんが勝手に送っただけだから…!俺、パンでもご飯でもどっちでも大丈夫」
「それならいいんだけど…」

先輩は掛け布団を肩まで引き上げた。
いつの間にか、夏用の薄手のものに変わっている。

「先輩の作るものなら何でも食べるよ」
「……傷みそうなピーマン使ってもいい?」
「…それは……勘弁して…」

冗談だよ、と先輩が笑った。
電気を消すと、おやすみ、と、眠そうな声がした。

「おやすみ、先輩」

声をかけても返事はない。
そっと顔を覗き込むと、既に瞼はぴったりと閉じられていた。

その穏やかな顔に、先ほどの泣き出しそうに怯えた顔がダブる。
酔っ払って、多少強引になってしまった、というほど生易しい感じではなかった。
あの男の目には暗い欲望が見え隠れしていた。

あの上司、先輩に何かしてないといいけど。

よからぬ不安ばかりが湧いてくる。

「辛いことがあったら、言ってね」

一人で、泣かないで。

薄く開いた唇に、そっと自分のを合わせた。
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