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忘れられる、キスを
第29章 嫌悪
頻繁に繰り返される食事の誘いも、あの日以来、全て断り、一人にならないよう、気を付けながら仕事をしていたことで、過剰な接触は減りつつあった。

だからこそ、油断していたのかもしれない。

あれから数週間経ったある暑い日の夕方、私は、佐野さんに資料の整理を頼まれ、物置兼資料庫となっている部屋の奥で作業をしていた。
背の高いスチール棚に囲まれた中で、私は黙々と作業を進めた。
事務室とは少し離れた場所にあるため、電話の音も人の話し声も聞こえず、静かだった。

突然、ガチャガチャ、と扉の開閉音が聞こえた。
ふと影が落ち、顔をあげると、そこには、佐野さんがいた。

「あ…」
「やっと、二人きりで話せるな、深町」

ニイッと唇の端が薄くめくれる。

「お前、最近、俺のこと避けてるから」
「そ、そんなこと…」

声が掠れる。
背中を冷たい汗が流れた。

「いや、避けてるね。何故避ける?俺が嫌いか?そんなに早坂がいいか?」

ジリジリと距離を詰められる。
部屋の隅に追い詰められ、私に逃げ場はない。

「早坂や弟……じゃなくて、彼氏だよな、この前の男。そいつらの前ではこんな顔、してるのになあ」

すっと数枚のハガキサイズの紙を突き出される。
そこには、どれも、私が写っていた。

「俺の前では、こんな怯えた顔して……そそるよなあ…」

太い指が、くっと私の顎を掴んだ。

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