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忘れられる、キスを
第31章 傷痕
再び、ぎゅうっと強く抱きしめられた。
石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。

「ごめん」
「え?」
「気付いてあげられなくて、ごめん」

星くんの指先に力がこもる。

「一人で、泣かせちゃった」

とくん、とくん、と変わらず動く心臓の音に耳を澄ませる。
ゆっくり背中を撫でる手が気持ちいい。

「星くんは、なんにも、悪くないよ」

私がどうしてこんなところにいるのか、星くんは全部知っているみたいだった。

「…ごめんね、ほっぺ、叩いちゃって……」

痛くない?と伸ばした手をそっと握られた。
大きくて、少し冷たい、星くんの手。

「先輩こそ、おでこのとこ、痛くないの?」
「ん、大丈夫」

星くんが、そっと、私の口元に触れる。

「ここも、怪我してる…唇も、切れて…」

ねぇ、星くん。
私、好きでもない男の人に、キス、されたんだ。
裸も見られたし、身体はめちゃくちゃに触られた。
こんな私、気持ち悪くないの?

なんで、そんなに優しく、抱きしめてくれるの?

言葉は声に出せず、また、ぽろぽろと涙に変わった。
なんでこんなに涙が出るのか、分からない。
星くんに抱きしめられると、なぜだか止まらなくなる。

「先輩が泣き止むまでこうしてる」
「ん…」

星くんの優しい声に、私はそっと目を閉じた。
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