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忘れられる、キスを
第31章 傷痕
「星、くん…?」
「落ち着いた?」

顔をあげると、星くんが今にも泣き出しそうな顔で笑っていた。

「ど、どうして…ここに…?」
「先輩が、倒れたってきいたから…」

最後まで言わずに、またぎゅうっと抱きしめてくれる。
今度は、少しの恐怖もなかった。
温かくて、心地よくて、どっと安心感が押し寄せる。

「ほし、くん…」
「ん…?」

声のかわりに、ぼろぼろと、涙が出た。
止めようと思っても、全然止まらない。

「…っう……ほ、し…っく…」

喋りたいのに、上手く声が出ない。
星くんは、そっと、背中を撫でてくれる。

「我慢しないで。俺、ずっとここにいて、こうしてるから」
「こ、こわかっ…た……ほしくっ…こわ…い……っう…」

カタカタと指先が震える。
必死で、星くんのシャツを掴んだ。

「もう、平気。先輩を傷付ける奴はどこにもいない」

星くんの優しい声が聞こえる。
涙は全然止まらなくて、私は小さい子どものようにしゃくり上げた。

ああ、まただ。
また、星くんに甘えてる。
みっともないから、もう、やめたいのに。

星くんは、全く泣き止まない私の背中をトントンと優しく叩く。
硬い胸の奥から聞こえる心臓の音に心が落ち着いてくる。

「星、くん」

ん、と小さく答える。

「ぎゅっ、てして」

もう少し、だけ。
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