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忘れられる、キスを
第32章 雛鳥
気付いたら俺の腕の中で、先輩はすうすうと寝息を立てていた。
泣き疲れて眠ってしまうのにはもう慣れっこだ。
抱きかかえてベッドに寝かせ、肩まで布団をかけた。

病室の外に出ると、目の前のソファに早坂さんが座っていた。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

差し出された缶コーヒーを受け取る。

「顔、平気?まだ結構赤いけど」
「大丈夫です、これくらい…」

まだ少しヒリヒリするが、先輩の受けた痛みや苦しみを考えると取るに足らない痛みだ。

「深町、君がいると落ち着くんだな」

名前、聞いていいい?と早坂さんが笑う。

「星、です。星龍太郎」
「星くん、信頼されてるね」

そうなのだろうか。
けれど、それなら、もっとちゃんと話してくれたんじゃないだろうか。

「俺ね、深町が入社して、教育係としてついて、そのまま部下にしてもう三年目なんだ。結構、いいコンビだと思ってたんだよ、俺たち」

ふーっと早坂さんが息をつく。
俺の知らない先輩を知っている早坂さんに少しだけ、嫉妬してしまう。

「でも、今回のこと、全然気付かなかった。佐野が彼女に何をしていたのかも、全然知らなかった。深町も助けを求めてくれなかった…」

ああ、この人も、俺と同じこと考えている。
先輩のことを守れなくて、悔しいんだ。

ほんの少しだけ、嫉妬してしまった自分が恥ずかしかった。

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