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忘れられる、キスを
第32章 雛鳥
「二人はいつからの付き合い?」

ふっつりと会話が切れた静けさに耐えられなくなったようだ。

「え、あー…俺が大学入った年にえっちゃ…深町先輩が四年生で」
「へえ、結構長いんだ」

早坂さんの目が優しく笑う。

「付き合ったのは、最近…なんです。六月くらいで…」

流石に、期間限定、とは言えない。

「君から?」
「えっ…あ…まあ…」

顔が熱くなる。

「最近、深町、綺麗なったなあって思ってたんだけど。君のせいか」
「も、元からじゃないですか」

あ、まずった。
何を言ってるんだ俺は。

顔がますます熱くなるのを感じた。
ぷっ、と早坂さんが吹き出した。

「そうだな、悪かった」
「……今のは忘れて下さい」

全く、本人ならともかく、他の人にこんなことを言ってしまうなんて。

「さっき確認したら身体に異常はないし、怪我も大したことないから、明日はもう、退院して大丈夫だそうだ。昼前に迎えに来るよ。君は、来られるか?」
「あ、はい。でも、早坂さんがいるなら…」
「深町には君がついててやってくれ。身体は平気でも、心はまだきっと…」

早坂さんがきゅっと膝の上で拳を握る。

「支えが必要だ。安心して心を預けられる誰かが」

安心して、心を預けられる誰か。
俺は、その誰かに、なれるのだろうか。
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