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忘れられる、キスを
第34章 夏休み
翌朝、ふわりとバターの香りで目が覚めた。

「ん…せんぱ、い…?」
「おはよ、星くん」

顔を洗って戻ると、朝ごはんの支度が出来ていた。
オムレツにサラダとトースト。
コーヒーのカップは二つ。
けれど、オムレツは一人前。

「先輩、食欲ないの?」
「プリン食べるから…」

相変わらず、俺の横にぴったりとくっついて座っている先輩の目の前には、コンビニで買ったやたらと生クリームの乗った大きいプリンが置いてあった。
俺はありがたく、目の前の朝食にありついた。

「先輩これからしばらく休みでしょ?俺、夏休みだし、バイトもしばらく休みだから、どっか行こうよ」
「どっかって…」
「先輩の行きたいとこ、どこでも」

うーん、と考えて、でも特に浮かばないようだ。
あんまり、遊びたい気分でもないか。

「まあ、無理して出かけなくてもいいけど…でも、閉じこもってばかりじゃ良くないから、さ」

そうだね、とプリンを一口。
口元に白いクリームが付いている。
指先で拭って、そのまま自分の口に入れる。

「ちょ、星くん…!」
「んー…これはちょっと甘すぎ…」

顔を紅くして抗議する先輩が可愛い。

「やっぱり、俺が食べさせてあげないとすぐ口の周り汚しちゃうね」

少し意地悪く言うと、そんなことない、とふいっとそっぽを向かれてしまった。
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