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忘れられる、キスを
第40章 友達
結局、いつもより少し早めにバイトを終えたことにして、九時半過ぎに先輩に電話した。
まだ、会社の最寄りにいると言うので、改札まで迎えに行く。

「わざわざ、来てくれたの?」
「あー…うん…」

まさか、先輩のデート?が終わるまで駅の近くで待っていたとは言えない。
相手の男も一緒にいるかと思ったが、先輩は一人だった。

「遅かったね。…残業?」
「…偶然、友達に会って…ご飯食べてたの」

ふーん、友達、ね。

俺の妙な勘ぐりには気づかない。
ほんのり頬が紅く、いつもより、心なしか饒舌だ。

「…先輩、お酒飲んでる?」
「え、あ、うん、ちょっと」

ふふ、っと笑みを零す。
そんな無防備な顔を俺以外にも見せたかと思うと、また苛々とした嫉妬心が顔をのぞかせた。

「ねえ」
「ん?」
「俺といる時以外は、お酒飲まないで」

きょとんとした顔で、こちらを見上げる。
その顔がダメ、なのだ。
無防備で、少女然とした、庇護欲をそそる顔。

「ねえ、先輩」

あの男の人、誰?
偶然会った、友達、なの?

聞きたくて、でも聞けなくて、その代わりに、先輩の手をきゅっと握る。
いつもより、少し強く。

今、先輩と手を繋いでいるのは、俺。

その事実が、少しだけ心を落ち着かせてくれた。
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