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忘れられる、キスを
第43章 すれ違い
「なんで、倉田先輩が来たの?」

冷たい視線が見下ろしてくる。
こんな星くんは初めてだ。
乱暴に服を脱がされ、佐野さんに襲われた時の恐怖が甦り、身体が強張る。

「だから、偶然、だってば…っう…」

胸元にチリッと痛みが走る。
強くつかまれた手首に痺れを感じた。

「食事、行ったのも…もしかして、倉田先輩?二人っきりで、お酒飲んだの?」
「……あの日は、たまたま会って…」
「デートしたんだ」

ムカつく、と低い声が聞こえた。

「デートじゃ、ない…」

一週間ほど前、偶然会社帰りに倉田先輩に会い、一緒に食事をした。
六月にサヨナラをして以来の再会だった。
別に何もやましいことはない。
けれど、星くんにはなんとなくそのことを言えずにいた。

そして、文化祭の日、体育館前でまごついていた私の背中を押してくれたのも倉田先輩だ。
倉田先輩がいなかったら、星くんのライブには行けずじまいだった、と思う。

「なんで…また、倉田先輩なんだよ…」

くっと星くんの眉根が寄る。
嫌だ、と低い呟きが聞こえて、手首をつかむ指先に更に力が込められる。

「先輩が、他の人を見ているところを見るのは、もう、嫌だ」

俺だけ、見て、と低い呟きが聞こえ、再びチリッと痛みが走った。
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