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忘れられる、キスを
第43章 すれ違い
「あ、あの…今日は、星くんは…」
「リュウなら、休みだよ」

伊東さんがきょとんとした顔で目を瞬かせた。

「なんか、内定先で研修があるからしばらく休むんだってさ……あれ、きいてないの?」
「え…っと…」

喧嘩をしているとは言えず、曖昧な返事になる。

「リュウと、何かあった?」

優しい目で見つめられ、急にどぎまぎしてしまう。
何と話せばいいか、戸惑っていると、目の前にコトン、とカップが置かれた。

「まあ、無理には話さなくていいよ。あ、ココア、冷めないうちにどうぞ」
「いただきます…」

ふわりと甘い香りが鼻を抜ける。
一口飲むと、その温かさに心が落ち着いた。

「ちょっと…喧嘩、してしまって…」

グラスを磨いていた伊東さんの手が止まる。

「喧嘩?リュウと?……理由、きいても?」
「………学生の頃に、ずっと好きだった人と偶然再会して…」

無理やり押し倒された所は省いて、喧嘩になった顛末を説明する。
話しながら、恥ずかしさに顔が熱くなった。

「それは……ただのヤキモチだね」

子どもだなあ、と伊東さんはクスクス笑う。

「まあ、リュウがそうなる気持ちも分かるけど……ちゃんと、話せばすぐ仲直り出来るよ」

だから、そんな顔しないで、と伊東さんがにっこり笑った。
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