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忘れられる、キスを
第44章 冷却
先輩の家から逃げるように飛び出して、ひどい自己嫌悪にため息がでた。

どうして、あんな酷いことをしてしまったのだろう。
先輩が一番嫌がることだって、分かっていたはずなのに。

抑えられなかった。
ようやく、えっちゃん先輩の心がこちらに向いてくれたと思ったのに。

なんで、また、倉田先輩なんだ。

苛々としたどす黒い気持ちが、吐き気のようにせり上がってくる。

えっちゃん先輩の言葉に、嘘はないだろう。
会社帰りや文化祭で会ったのも、偶然。
気持ちにもちゃんと決着が着いている。

そんなこと、分かっている。

けれども、えっちゃん先輩は、分かっていない。

不安で、どうしようもない俺の気持ちを。
倉田先輩が、俺にとって、越えられない存在だってことを。
俺が、どのくらい、えっちゃん先輩のことを好きかってことを。

えっちゃん先輩は全然分かっていないんだ。

だから、身体に、心に、刻み込もうとした。
俺の想いを。

そんなことをしても、伝わらないのに。
ただ、彼女を傷つけ、苦しめるだけなのに。

言いようのない後悔がぐるぐると心に渦巻く。

「くっそ…なんで……」

情けない。
もう、二十一だぞ俺。
ちょっと、上手くいかなかっただけじゃないか。
なのに、なんで。
なんで、泣いてるんだよ。
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