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忘れられる、キスを
第44章 冷却
「深町さんがね、君のピアノをすごく褒めるから…『星くんのピアノは優しくて、あったかい音がする』って」

倉田先輩がにこにこと話す。

「深町さんがそんな風に言うから、気になっちゃって。それで、文化祭で君のピアノ聴いて、分かったよ」
「何がですか?」
「君が、心から、深町さんのことを好きなんだ、って」

真面目な顔で言われて、思わず恥ずかしさに顔が熱くなる。

「『誰』のためでもなく、『深町さんのために』弾いてた、でしょ?」
「………先輩に、一番、聴いて欲しかったんで…」

倉田先輩のことを思い出す隙がないくらい、俺の音で、いっぱいにしたくて。

「君の演奏は素晴らしかった。…おれなんか、足元にも及ばないよ」
「何言ってるんですか…」
「本当に、良い演奏だった。深町さんにも、ちゃんと、届いてるよ、君の気持ちは」

そうなのかな。
届いてる?
俺の気持ち。

「おれが言えることじゃないけど…深町さんを、よろしくね」
「……言われなくても…」
「そうだね」

俺の不躾な言い方にも、倉田先輩は嫌な顔一つせずにこやかに答えた。

この人は、大人だ。
やっぱり、今の俺じゃかなわない。

「じゃあね。次に会う時は、星くんの上司として、かな」

帰り際にいたずらっぽく笑って、言った。

ああ、もう。
全然勝てそうにないよ。
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