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忘れられる、キスを
第48章 距離
「ね、どんな娘?教えてっ」
「な、だから、そんなんじゃ…」
「いいじゃない、写真ぐらいあるでしょ」

さっとピアノの上に置いた携帯を取り上げられる。

「か、返せよ」
「どんな娘か教えてくれるなら返してあげる」

伸一さーん、リュウが彼女出来たって、と父親に声を掛けながら、一階に降りてしまう。
慌てて後を追いかけると、炬燵でミカンを食べていた父親がこちらを振り向いた。

「良い音だすようになったな、リュウ」
「あ、ありがと…」

普段、ピアノの事ではあまり褒められないのでちょっと嬉しい。
お茶を淹れて戻ってきた母親が、父親の隣に座る。

「昔は淡白な演奏だったけど、今は何だか艶があるわ」
「あの曲を聴かせたい相手がいるんだろ」

気になる、とにやにや笑う母親を父親が窘めた。
母親がトイレに立った隙に、「で、どんな娘なんだ?」と父親がいたずらっぽい目をして笑った。

「どんな…って…サークルの先輩で…」
「年上か。やるなあ」
「たまたま、ね。年上っぽくないけど…」

ふと先輩のことを思い出し、恥ずかしくなって目を逸らす。
父親がくくっと笑った。

「今のお前の音なら、伝わるよ」
「え?」
「伝えたいこと、あるんだろ?」

ま、がんばれ、とぱん、と背中を叩かれた。

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