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忘れられる、キスを
第48章 距離
あっという間に年は明けた。
一人で過ごす年末年始ほど暇なものはない。
大学もしばらくは閉まっているので、ピアノを弾きにいくこともできない。
持て余した時間を、俺は実家で過ごしていた。
綺麗好きの母親が俺のいない間も掃除しているのか、自室も家を出た時と同じままだ。
部屋の隅に寄せられたアップライトピアノにも埃一つない。
鍵盤を叩くと、ポーンと小気味好い音が返ってくる。
元々、両親ともピアノが好きだったことから自然と俺もピアノを始めたのだ。
俺が使わない間は、両親が使っていたのかもしれない。
慣れ親しんだピアノはやはり弾きやすい。
簡単なエチュードで指ならしをしてから、持ってきた楽譜を引っ張り出す。
正直、実家でこの曲を弾くのは気恥ずかしいが、仕方ない。
指先に神経を集中させる。
最後の一音まで、丁寧に。
「あんた、その曲…」
いつの間にそこにいたのか、俺の後ろで母親がくすくすと笑った。
「誰か、いい人でもいるの?」
「……なんだよ、それ」
「だって、それ、母さんと父さんの思い出の曲よ?」
知ってますとも。
だから、ゲンを担いだわけで。
「懐かしいなあープロポーズの時に弾いてくれたのよ、その曲」
母親がにっこり笑った。
一人で過ごす年末年始ほど暇なものはない。
大学もしばらくは閉まっているので、ピアノを弾きにいくこともできない。
持て余した時間を、俺は実家で過ごしていた。
綺麗好きの母親が俺のいない間も掃除しているのか、自室も家を出た時と同じままだ。
部屋の隅に寄せられたアップライトピアノにも埃一つない。
鍵盤を叩くと、ポーンと小気味好い音が返ってくる。
元々、両親ともピアノが好きだったことから自然と俺もピアノを始めたのだ。
俺が使わない間は、両親が使っていたのかもしれない。
慣れ親しんだピアノはやはり弾きやすい。
簡単なエチュードで指ならしをしてから、持ってきた楽譜を引っ張り出す。
正直、実家でこの曲を弾くのは気恥ずかしいが、仕方ない。
指先に神経を集中させる。
最後の一音まで、丁寧に。
「あんた、その曲…」
いつの間にそこにいたのか、俺の後ろで母親がくすくすと笑った。
「誰か、いい人でもいるの?」
「……なんだよ、それ」
「だって、それ、母さんと父さんの思い出の曲よ?」
知ってますとも。
だから、ゲンを担いだわけで。
「懐かしいなあープロポーズの時に弾いてくれたのよ、その曲」
母親がにっこり笑った。