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忘れられる、キスを
第49章 キス
気付いたのは電車に乗った後だ。
実家を出る時、慌てていたらしい。
携帯を充電したまま、実家に置いてきてしまった。

そんな時に限って電車がかなり遅れている。
どうやら、少し先の駅で混雑から線路に転落してしまった人がいたらしい。
星くんとの約束の時間は間近に迫っていた。

星くん、待ってるかな…
でも、行くとは言ってないし…

進まない電車にモヤモヤが募る。

星くんに会って、どんな顔をすればいいんだろう。
ずっと、星くんから逃げていたことを謝らなきゃいけない。
でも、何ていうの?
星くんのお友達に、ヤキモチ焼いてました、って言うの…?

星くんは何て言うだろう。
子どもっぽい、って笑うかな。
それとも、呆れちゃうかな。

想像するだけで恥ずかしい。

ようやく進み始めた電車内では遅延を謝罪するアナウンスが流れていた。
この分だと、駅に着く頃には約束の時間はだいぶ過ぎてしまうだろう。

何度目かのため息が溢れる。
連絡をしようにも電話番号なんて覚えていない。
ぼんやり考えながら、ふと、窓の外に目をやると白いものが散っている。

え、雪…?
確かに、今朝はものすごく寒かったけど…

諦めて帰っていますように、と祈るように目を閉じた。
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