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忘れられる、キスを
第49章 キス
ようやく駅に着いて電車を降りると、ひんやりとした空気に思わず肩を縮めた。
約束の時間はもう二時間も過ぎている。
とっぷりと日もくれ、駅周辺といえど、辺りは暗い。

もし、まだ待っていたら…

来るまで待ってる、と言った星くんの言葉が耳に残っている。
駅から約束の神社までは十五分程の道のりだ。
わざわざ私の最寄り駅の神社を指定してくるところからも星くんの気遣いが伺える。

高台にある神社へはちょっとした石段を登らなくてはならない。
普段から運動不足の私にはなかなかキツい。
何とか登りきると、境内は三が日を過ぎたとはいえ、まだ賑わいを残していた。

「えっちゃん先輩?」

後ろから声をかけられ、思わず肩を揺らしてしまう。

「星、くん…」
「来てくれたんだ。良かった」

ほう、と安堵したようについた息が白い。

「ご、ごめんね…電車、遅れて…ケータイ実家に忘れて…連絡できなくて…」

しどろもどろに喋る私に、星くんがプッと吹き出した。

「案外おっちょこちょいだよね」

それから、急に真面目な顔つきになって、来てくれて良かった、と私の手を握った。
その冷たさが、どれだけ長い時間寒空の下にいたのかを雄弁に語っていた。
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