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忘れられる、キスを
第6章 我慢
えっちゃん先輩と駅で別れて、十分後には家に戻っていた。

『昨日、ありがと』と言ったときに見せた笑顔。
お腹を鳴らして恥ずかしがる顔。
ぼんやりこちらを見ていたかと思えば、敬語を使わないことに不機嫌になった顔。
パンケーキを幸せそうに頬張る顔。

えっちゃん先輩のくるくる変わる表情を思い出して、顔が緩む。

昨日の俺の失態も、自分にも非がある、と許してくれた。
そんなことないのに。
悪いのは、自制できなかった俺。

手を繋ぐことも、許してくれた。
多少強引だったし、握り返してはくれなかったけど、拒絶は、されなかった。

告白は、やっぱり、というか、あんなことした後だから仕方ないけど、イマイチ信用してもらえなかった。

まあ、順番が逆になってしまったのは原因の一つとして、あとは年齢差、とやっぱ倉田先輩…か?
どうしても、あの人の存在が邪魔になる。
別に付き合ってるわけじゃないから、俺が遠慮することはないんだけど、えっちゃん先輩は…
きっとまだ、引きずってるんだろうな。
いっそのこと、もっとはっきり手酷く振られればいいのに。

そしたら。
俺が。

そこまで考えて、自分の幼稚さが嫌になる。

えっちゃん先輩が倉田先輩とくっつくのが一番幸せ。
とは、思えない。
好きな人の幸せを願うのが大人になら、俺は一生大人になれない。
俺は好きな人と幸せになりたい。

えっちゃん先輩を、俺が、幸せにしたい。
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