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忘れられる、キスを
第53章 ふたりぐらし
朝の光を感じて不意に目が覚めた。
少し、身体が重い。
ゆっくりと目を開けると、ぼんやりとした視界の中に愛おしい寝顔がみえる。
私の手を握ったまま、規則正しい寝息を立てている星くんを起こさないように、そっとベッドから抜け出た。

少し冷たい床に立って、私はようやく自分がほとんど素っ裸だということに気づいた。
慌てて床に脱ぎ捨てられていたシャツを羽織る。
ふわっと星くんの香りが鼻腔をくすぐった。

そっとカーテンを開けると眩しい光が部屋の中にあふれ、空気がきらきらと光るようだった。
窓を開け、春先のまだ少し冷たい風の匂いを吸い込む。

「んー…」

小さくうなるような声がして、ベッドを覗き込む。
星くんがもぞもぞと寝返りを打って、また健やかな寝息を立て始めた。
音を立てないよう、静かに寝室を抜け出して洗面所へ向かった。

顔を洗ってだいぶ頭が冴えてきた。
鏡に映った自分の首元に、いくつもの紅い痕があることに気づいて、昨日の夜を反芻する。

「昨日は…すごかったな……」

痕をなぞりながらひとりごちて、顔が熱くなるのを感じた。


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