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忘れられる、キスを
第6章 我慢
「せんぱ…い…俺…です…」
『お、オレオレ詐欺…?』

呑気な声が聞こえた。
平常時なら、こんなことさえ可愛く思うだろうが、今は余裕がない。

「風邪、ひいて…苦しい…」
『ん…星くん?風邪…?大丈夫…??』
「だいじょ…ばない……から…き…」

だんだんと意識が遠のく。

あ、やばい。

遠ざかる意識の中で、ゴツッと携帯が床に落ちる音が聞こえた。


気が付くと、肩まで布団が掛けられ、額にはひんやりとした熱冷ましのシートが貼られていた。
目を開けると、ぼやけた視界がだんだんはっきりしてくる。

「起きた…?大丈夫…?」

心配そうに覗き込むのは……えっちゃん先輩?
俺は思わず半身を起こす。

「せ、先輩…なんで…」
「なんで…って、星くんが電話してきたんでしょ。すごい苦しそうだし、途中で電話切れちゃうし、びっくりした」
「ど、どうやって入ったんすか…」
「星くんが開けてくれたんだよ?覚えてないの?」

全く記憶にない。
インターホンに無意識で反応したのか?

「玄関先でへたり込んじゃったから、ここまで連れてくるの大変だったんだよー」
「うっ…すみません…」

先輩は小柄だ。
身長は俺と頭一個半くらい違う。
別に特別腕力があるわけでもない。
それなのに、俺をベッドまで連れて来たのか。

「汗、すごいね。一回身体拭いて、着替えて、水分摂ろう?」

先輩が俺の背中に触る。
ひんやりとした手が心地よかった。



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