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忘れられる、キスを
第7章 風邪
せめて、眠るまではそばにいて欲しい、といわれ、星くんがぐっすりと深い眠りに落ちていくところを眺めていた。

枕元の時計を見るとそろそろ午後十時になるところだった。
星くんも寝たし、帰ろう、と立ち上がろうとして、気付く。
離してくれない。
待って、と子どものように縋り付いた、右手。
細い指が、私の左手を絡めて離さない。

一本、一本、そっと、指を外す。
途中で起こしてしまうかもしれない。
そんな思いは杞憂だった。

星くんは安心しきったように、すうすう寝息を立てている。
頬に触れると、まだ熱を帯びて、熱い。

星くんの使った食器類を片付け、枕元にスポーツドリンクとミネラルウォーターのボトル、それから、私がたまに使う整腸剤を置く。

鍋の中にはお粥が半分。
もう少し、何か用意してあげたかったが、星くんの家の冷蔵庫には本当に何もない。
まあ、あまり胃腸の調子はよくないみたいだから、夜までなら、このくらいで平気かしら。
そんなことを考え、短く書き置きを残す。

帰る前に、もう一度星くんの寝顔を覗き込む。
相変わらず、顔は赤いが、先程よりかなり落ち着いている。

「……ん、えっ…ちゃ……」

寝言をいって、寝返りを打った。
布団がずれる。
もう一度肩まで布団を引き上げ、掛け直す。

まだ熱を帯びる赤い頬に、ちゅっと口付けして、部屋を出た。



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