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忘れられる、キスを
第9章 痕跡
抱きしめられて、キスをされて、身体を触られて。
抵抗出来ずにいたら、例の腹痛に襲われたのか、星くんは突然、物凄い勢いでトイレへ駆け込んで行った。

その隙に、コートとバッグを引っ掴み、外へと出る。
そのまま早足で駅に向かい、滑り込んできた電車に飛び乗った。

ああ、びっくりした…

シートに座ってようやく人心地つく。
車内は、疎らにしか人がいない。
静かに揺れる車内で、さっきまでのことを思い返す。

夜寝る時に抱きしめられたときも、病院までの道すがら手を繋がれたときも、体調が悪いから心細いのかな、なんて思って、つい、強く拒否はしなかった。

けど、さっきのは、違う…よね。
この間の、続き。
そうなるかと思った。
キスする直前、一瞬だけ見えた、男の人の目。
いつもの、星くんじゃない、荒っぽいものをたたえた目。

怖くて、でも、ドキドキして。
目をそらしたくても、そらせない。

ふと、マフラーを忘れてしまったことに気付いた。
ついでに、またもや、例のパジャマとトランクスも置いて来てしまったことに気付き、冷や汗が出る。

いくらトランクスとはいえ、自分が下着同然に穿いてものを男の子に洗われるなんて…

考えただけで顔が熱くなる。

連絡しようか、とも思ったが、逃げるように飛び出して来てしまったので、かなり気まずい。

さすがに、マフラーは捨てはしないだろう、と高を括り、携帯を鞄に戻した。


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