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忘れられる、キスを
第11章 恋
倉田先輩を想って自分を慰めたあの日からというもの、事あるごとに、私は、その背徳感を味わうかのように、愉悦に耽っていた。

夢の中で先輩は私を優しく、時に激しく抱き、甘い快楽の世界へと導いてくれた。
先輩と夢の中で会った日は、身体の中で燻るものがほんの少しだけ治まり、けれど、夢から醒めれば、虚しさばかりが募るのだった。

そんな秘事を抱えながらも、私は多忙な日々を送っていた。
年度末に向けて事務仕事は増え、おまけに同僚の一人が突然退職してしまったことで、私の業務は普段の三倍にも膨れ上がっていた。

星くんのことも気にはなっていたが、あまりの目まぐるしさに、そこまで気を回す余裕もなくなっていた。
マフラーがなくて首元は寒かったが、もう三月も終わりに差し掛かると、そのことさえ頭の隅のほうへ追いやられていた。

そして三月最後の日曜日。
その日、私は朝からぐったりとベッドの上に倒れたままだった。
度重なる残業と休日出勤に身体は悲鳴をあげていた。
起き上がろうにも、気力がない。
ふと、カレンダーの日付を見て、はっとした。

倉田先輩、誕生日だ…

ベッドのすぐ横に転がした鞄を引き寄せ、携帯を取り出す。
しばらく迷って、でも、お祝いのメッセージ送るだけだし…と自分を奮い立たせる。

『お誕生日、おめでとうございます。良い一年になりますように』

それだけ打って、送信する。

こうやってメッセージ送るから、ずるずる気持ちを引きずってしまうのだ。
もうやめよう。
今年でやめよう。

そう思った時、手の中で携帯が小さく振動した。


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