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忘れられる、キスを
第11章 恋
「ほ、星…くん…」

なんで、星くんが、ここに?

驚いて顔を上げた私の隣に星くんが座る。
手の中のバイブレーションが鳴り止んだ。

「あ…面接の帰りに友達と会って…飲んでて…」

歯切れ悪く星くんが言う。
反対側のホームにいたら、えっちゃん先輩がいるの、たまたま見えたから…とボソボソ話した。

「先輩、今日、可愛いっすね。デート、とか?」

ぎくり、と肩が動く。
デート…じゃない。
私は、そう思っていたけど。

「そのカッコじゃ、寒いでしょ。これ、返します」

そう言って、ふわりと首の周りに紺のマフラーを巻かれた。
星くんの使うシャンプーの匂いが移ったのか、今までと違う香りに包まれる。

「こういうこともあるかと思って、持ってて良かった」

星くんがにこりと笑う。
私は、何も話せない。
何か言えば、零れてしまいそうだから。

「先輩、また泣きそうな顔してる」
「……泣いて、ない」
「嘘つき」

低い声がして、ぎゅうっと左手を握られる。
少し冷たい星くんの指が食い込んでくる。

「は、離して…」
「やだ」

星くんは少し、怒ったような、苛立ったような声を出した。
そうこうしているうちに、電車の到着を報せるアナウンスが流れる。

「送ります」
「い、いいよ…一人で…」
「一人で、泣くでしょ」

星くんは、私の手を引き、滑り込んで来た電車に向かってずんずん歩き始めた。

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