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忘れられる、キスを
第11章 恋
小走りで駅の階段を降りる。
終電も近いこの時間だが、まだホームには人が溢れていた。
金曜の夜ということもあり、サラリーマンや学生らしき集団がそこここで、楽しそうな笑い声をあげていた。
電車は行ってしまったばかりらしく、まだしばらくは来そうもない。
ホームの隅に空いているベンチを見つけ、腰を下ろした。

ごめん、と言った先輩の顔が浮かび、気持ちに応えてもらえなかった悲しさが胸の中に込み上げてくる。

仕方ないじゃない。
だめなものは、だめ。
もう、忘れよう?
帰って、お風呂に入って、いっぱい泣いて、それでおしまい。

零れそうになる気持ちを落ち着かせるように、深呼吸する。
こんなところで泣いちゃ、だめ。

ブーブーと鞄の中で着信を知らせるバイブレーションがなる。

こんな時間に、誰?
もしかして、先輩…?

わずかな期待に指先が震える。
取り出した携帯のディスプレイに表示されているのは、マフラーを貸しっぱなしにしている後輩だった。

なんで、こんな時に。

声を聞いたら、また、泣いてしまうかも。
そう思ったらすぐには出られなかった。
ためらう間にも着信は続く。

このまま出なければ、寝てると思ってくれるよね。

そう思って鞄に戻そうとした時、

「何で、出てくれないの」

電話の主、星くんが目の前に立っていた。


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