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忘れられる、キスを
第12章 真夜中
反対側のホームの隅のほうで、鳴り続ける携帯を見つめて座る姿を見付け、声を掛けた。
下から俺を見つめる顔は、今にも泣き出しそうだった。

膝丈のふんわりとしたシフォンのスカートに薄いブルーのニット、肩まで伸びた髪はハーフアップ。
紺のリボンの付いた髪飾りが控えめについている。
耳朶には小さなパールのイヤリング。
頬はほんのり桜色。

ほんの一ヶ月と少し、会っていなかっただけなのに、先輩は、はっとするくらい綺麗になっていた。

これってやっぱり、倉田先輩が関係してる…?
でも、なんで、そんな顔してるの…?

「先輩、今日、可愛いっすね。デート、とか?」

俺の問いかけに、ぴくりと反応するが、答えはない。
俯いて、今にも泣き出しそうな先輩に、思わず手を握りしめてしまう。

離して、と振り解こうとする先輩の左手を強く掴む。

きっと、また、一人で泣くんだ、この人は。
一人で泣くなって、言ったのに。
俺のこと、頼ってくれてもいいのに。

そう思ったら苛々とした気持ちがせり上がって来た。

どうして、そんな顔してるの。
何が悲しいの。

聞きたい。
けれど、聞けばこの場で泣き出してしまいそうで。

俺は戸惑う先輩の手を引き、ホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ。

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