この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
数日後、紗英子は病院の待合室にいた。ここの病院は以前、通っていた大きな総合病院ではない。もう妊娠の可能性はないと告げられた時、できるなら小さな個人病院を紹介して欲しいと紗英子の方から頼んだのだ。
結果としては、それで良かったのかどうか。確かに自宅マンションからも車で二、三十分ほどで通うのには便利は良い。しかし、ここは産科・婦人科の看板を掲げてはいても、実質的には産婦人科に通う妊婦ばかりだ。紗英子のようにもう子どもを望めない女には、いささか場違いな雰囲気は否めない。
何しろ、紗英子の入っている病室の前が新生児室なのだ。大変人気がある病院のため、出産も順番待ちといった状態で、紗英子が入院できたのも、そこの院長がかかっていた総合病院の不妊外来医師の後輩だから―というコネがあったからこそだった。
だから、子宮摘出で入院するのに、新生児室の真ん前の部屋を当てられたと文句を言える筋合いでもなかった。現に、入院前に主任と呼ばれる四十ほどの看護士が紗英子に打診してきたのだから。
―ちょっとお産の妊婦さんが一杯で、予備の部屋しか空きがないんだけど、構わないかしら。
その部屋というのが赤ちゃんのいる新生児室の前なのだと告げられ、今更、いやだと言えるはずもなかった。
こじんまりとした病院ではあるが、外観はオシャレなペンション風だし、部屋は病室とは思えないほど内装も明るい。ベッドは病院特有の作りではなく、ごく普通の家庭で使われるようなデザインだ。姫風の部屋あり、シンプルなブルーで統一された部屋ありと、さながらレディースホテルのような雰囲気である。食事は三度ともこれも豪華で、ホテル並み、こんなところで出産できるなら、願ったり叶ったりだろう。
結果としては、それで良かったのかどうか。確かに自宅マンションからも車で二、三十分ほどで通うのには便利は良い。しかし、ここは産科・婦人科の看板を掲げてはいても、実質的には産婦人科に通う妊婦ばかりだ。紗英子のようにもう子どもを望めない女には、いささか場違いな雰囲気は否めない。
何しろ、紗英子の入っている病室の前が新生児室なのだ。大変人気がある病院のため、出産も順番待ちといった状態で、紗英子が入院できたのも、そこの院長がかかっていた総合病院の不妊外来医師の後輩だから―というコネがあったからこそだった。
だから、子宮摘出で入院するのに、新生児室の真ん前の部屋を当てられたと文句を言える筋合いでもなかった。現に、入院前に主任と呼ばれる四十ほどの看護士が紗英子に打診してきたのだから。
―ちょっとお産の妊婦さんが一杯で、予備の部屋しか空きがないんだけど、構わないかしら。
その部屋というのが赤ちゃんのいる新生児室の前なのだと告げられ、今更、いやだと言えるはずもなかった。
こじんまりとした病院ではあるが、外観はオシャレなペンション風だし、部屋は病室とは思えないほど内装も明るい。ベッドは病院特有の作りではなく、ごく普通の家庭で使われるようなデザインだ。姫風の部屋あり、シンプルなブルーで統一された部屋ありと、さながらレディースホテルのような雰囲気である。食事は三度ともこれも豪華で、ホテル並み、こんなところで出産できるなら、願ったり叶ったりだろう。