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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 いつまでも終わった過去にしがみついているのは、愚かなことだ。日が経つにつれ、紗英子はそんな風に考えられるようになりつつある。もう子どもを持つという望みは完全に絶たれたが、直輝ではないけれど、かえって、その方が気楽に生きてゆけるかもしれない。セックスだって、排卵日を気にする必要もないし、昨夜のように奔放に楽しもうと思えば楽しめる。
 何より直輝にはかえって心の重しが取れたようで、以前より明るくなった。それほど不妊治療が彼に負担をかけていたのかと思えば、申し訳なさよりはやはり面白くない気持ちが先に立つ。が、とにかく一つの段階は終わった。後は〝お二人さまの老後〟を迎えるまで、夫婦で共通の趣味でも持って人生を前向きにエンジョイすることを考えよう。
 そうはいっても、直輝はまだ三十五歳だ。定年を迎えるまでにはかなりの年月がある。土日以外、彼は仕事で殆ど家にいないから、夫婦の趣味だけでなく、紗英子自身もまた何か夢中になれるものを見つけた方が良い。
 時間はたっぷりとあるのだ。焦らず、探してゆこう。そんな風に自然に考えられるようになったのは、やはり、昨夜の直輝との満ち足りた一夜のお陰だろうか。
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