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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
「飛行機なんだよ、飛行機。ラジコンでね、本当に飛ぶんだよ。凄いでしょ」
「良かったね、たっくん」
「ボク、もう泣かないんだよ。ママがいなくても、頑張ってお留守番するんだ。だって、六歳になったし、来年は小学校に行くし、お兄ちゃんだからね」
「偉いねぇ」
 大好きな母親に褒められ、男の子は得意げに小さな鼻をうごめかしている。
「でも、クリスマスはママも赤ちゃんも一緒にお祝いできるよね?」
「そうね、あと二週間もあるから、大丈夫。ママ、あさってには赤ちゃんとおうちに帰るから。たっくん、もう少しの辛抱だから、パパやおばあちゃんと待っててね」
 涙がこぼれそうになり、紗英子は慌てて眼の奥で涙を堪えた。
 何というささやかだけれど、幸福な光景だろう! 子どもが当たり前のようにいて、母親が子どもと微笑みながら話している。
 誰もが平等に与えられるはずの幸福でありながら、何故、自分にだけ神さまは与えてくれなかったのだろう。
 と、男の子がふいに顔を上げた。知らず母子を見つめていた紗英子と眼が合う。
 男の子の顔に無邪気な笑みがひろがり、紗英子に物怖じせずに話しかけてくる。
「おばちゃんもお腹に赤ちゃんがいるの?」
「これ、拓也」
 母親の方が慌てて止めた。
「済みません」
 母親の方は出産前のマタニティパジャマのまま、紗英子の方はごく普通のパジャマである。しかし、六歳の幼児にその違いが判るはずもなく、ましてや、妊娠初期であれば、お腹が膨らんでいないから、妊婦かどうかは判らない。
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