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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
紗英子は微笑んだ。
「良いんですよ」
母親の方に頷いてから、男の子に優しく応えた。
「おばちゃんは赤ちゃんを産むために入院したんではないの。病気を治すために来たのよ。ボクの新しい家族は妹?」
「うん! 知(ち)早(さ)ちゃんっていうんだよ。名前はパパとボクで考えたの」
「そう、良い名前ね。おめでとう」
おめでとうございます、と、紗英子は母親にも笑顔で告げた。
「ありがとうございます」
母親はどこか引きつったような顔で頷き、慌てて男の子を促した。
「たっくん、お部屋に帰るわよ」
母親は赤ん坊を抱いたまま、足早に離れてゆく。
「うん、じゃあね」
男の子は無邪気に紗英子に笑いかけ、手を振る。紗英子もまた笑って手を振り返した。
「拓也、何してるの、行きますよ」
ヒステリックに息子を呼ぶ母親に向かい、男の子は駆けていった。
「駄目じゃないの、赤ちゃんのいない人にあんなこと訊いたら、失礼でしょう」
降りてくるエレベーターを待ちながら、母親の方が男の子を叱りつけている。
幼い子どもには何も悪気があったわけではない。むしろ紗英子が傷ついたのは、子どもの方ではなく母親の態度のせいであった。子どもをたしなめるのは親としては当然の行いであろうが、何もわざわざ衆目の中で―しかも紗英子当人に聞こえる場所で口にしなくても良いではないかと思う。
現に、母親の言葉が引き金になったように、待合室にいた数人の妊婦が窺うように紗英子の方をチラリと見た。紗英子にはそれが辛かった。
「良いんですよ」
母親の方に頷いてから、男の子に優しく応えた。
「おばちゃんは赤ちゃんを産むために入院したんではないの。病気を治すために来たのよ。ボクの新しい家族は妹?」
「うん! 知(ち)早(さ)ちゃんっていうんだよ。名前はパパとボクで考えたの」
「そう、良い名前ね。おめでとう」
おめでとうございます、と、紗英子は母親にも笑顔で告げた。
「ありがとうございます」
母親はどこか引きつったような顔で頷き、慌てて男の子を促した。
「たっくん、お部屋に帰るわよ」
母親は赤ん坊を抱いたまま、足早に離れてゆく。
「うん、じゃあね」
男の子は無邪気に紗英子に笑いかけ、手を振る。紗英子もまた笑って手を振り返した。
「拓也、何してるの、行きますよ」
ヒステリックに息子を呼ぶ母親に向かい、男の子は駆けていった。
「駄目じゃないの、赤ちゃんのいない人にあんなこと訊いたら、失礼でしょう」
降りてくるエレベーターを待ちながら、母親の方が男の子を叱りつけている。
幼い子どもには何も悪気があったわけではない。むしろ紗英子が傷ついたのは、子どもの方ではなく母親の態度のせいであった。子どもをたしなめるのは親としては当然の行いであろうが、何もわざわざ衆目の中で―しかも紗英子当人に聞こえる場所で口にしなくても良いではないかと思う。
現に、母親の言葉が引き金になったように、待合室にいた数人の妊婦が窺うように紗英子の方をチラリと見た。紗英子にはそれが辛かった。