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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
「あなたの言うとおりね。あの頃がもう随分と昔のような気がするわ」
 紗英子は呟き、空を見上げた。雲一つない抜けるような蒼い空。薄青い冬の空はいかにも寒々しく寒走って見える。
「あの頃は良かった、戻れるものなら時を巻き戻して、あの時代に帰りたいわ」
 視線を戻し、前方を見ても、既に少女たちの姿はどこにも見当たらなかった。
 同じ時代を共有していた二人は、別々の高校に進学した。直輝と紗英子は公立のN高校へ、小さいけれど貿易会社を営む父親を持つ有喜菜はお嬢さま学校として知られる私立の女子校へと進学し、それぞれの進む道は別れた。
 そう、時は二度と戻せないし、人は過去に帰ることもできない。ただ、ひたすら未来へ、前へ向いて進むしかない。たとえ、その先に何が待ち受けていようとも、後戻りはできないのだ。
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