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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
 というよりも、代理母を使って子どもを得ようとする話をして以来、直輝はまるで紗英子を見知らぬ他人を見るような眼で見るようになった。これが、あの子宮全摘した直後、紗英子を不安げに見守り、心から労ってくれた夫と同じ男か―、そう疑わずにはおられないほど醒めたまなざしに、紗英子ですらたじろぐことがあった。
 そんな時、紗英子の中をちらりと後悔に似たものがよぎるのだった。
 私は何かとんでもない間違いを犯してしまったのではないだろうか。
 直輝とのささやかで平穏な幸せを棄ててまで、突き進むだけの価値があるものだったのか。思わず代理母出産なんてもう止めてしまおうかと弱い心に挫けそうになってしまう。
 しかし、その度に、いや、そんなことはけしてないのだと自分に強く言い聞かせる。直輝だって、今は頑なに否定しているけれど、きっと可愛い赤ん坊の顔をひとめ見れば、紗英子のしようとしていることが間違いではないのだと判ってくれるに違いない。
 自分たちは紛れもない自分たち二人の血を引く子どもを仲立ちとして、これからもまた元のようにうまくいくだろう。そんな希望的観測を無理に抱き、紗英子は、すっかり冷淡になってしまった直輝には気づかないふりをして今までどおりにふるまうしかなかった。
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