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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
 結局、直輝はディナーどころか、プレゼントも今年はくれないままに結婚記念日は終わった。こんなときだからこそ、いつもと同じように気遣いを示して欲しかったと思うのは、自分の我が儘というものだろうか。
 十二月も下旬に入ろうかという日の午後、紗英子は一人で退院した。直輝は仕事なので、タクシーを頼みマンションまで帰宅した。
 直輝が勤務しているのはN企画という大手の広告代理店で、二人は会社のある同じN市内のマンションに暮らしている。マンシヨンは高級という形容詞をつけるのはいささかおこがましいが、中規模どころのそこそこの物件だ。
 クリスマスまでには、まだ間がある。退院したといっても、まだ当分は無理はできない身体だけれど、せめてクリスマスくらいは、ささやかなパーティの準備を整えたいと思う。
 できれば、少し遅れてしまったが、クリスマスと結婚記念日を兼ねたお祝いにしたい。紗英子は眼の前に小さな目標を見つけることで、今を乗り越えたいとも思った。結婚してから今までは、子どもを持つということが一つの目標であった。たとえ他人がどう思おうが、紗英子にとっては究極の望みであったのだ。 
 しかし、その望みを絶たれた今、自分がどうやって生きていけば良いのか、紗英子はまだ新しい目的を見つけていなかった。
 未来はあまりにも混沌としていて、到底、十年先、いや、一年先のことも思い描けない。頭に浮かぶのは、ただ空しく老いてゆく自分の姿ばかりだ。これではいけないのは自分でも判っている。だからこそ、焦りもするし、落ち込むのだ。
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