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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
それについて訊ねられた時、有喜菜は即答した。
「私は特に希望しません」
あまりにも素っ気ない返答に、温厚な医師も気圧されたように押し黙り、診察室には微妙な静けさが満ちた。
恐らく医師もその場に居合わせた看護士も、有喜菜がこの妊娠を心から歓んでいるわけではないと察していたはずだ。が、一度目の試みでの成功という幸運に酔いしれている紗英子には、有喜菜の固い表情に気づくゆとりはなかった。
診察室を出た後も、紗英子はまだ夢の中をふわふわと漂っているような気分だった。会計を済ませ、有喜菜とクリニックの玄関を出ると、二人は何となくぶらぶらと歩いた。建物を取り囲む庭園を抜けると、ほどなく湖に行き当たる。
国内でも十位以内に入るという大きさの湖は今日もよく澄んでいた。ちょっと見には滋賀県の琵琶湖を連想させるようだ。蒼く澄み渡った空と水平線が混ざり合い、どこからが湖なのか判別がつかない。
カモメが白い翼をひろげて蒼い空を旋回している。真っ白なカモメまでもが空の色に染まりそうなほど鮮やかなブルーだ。
「私は特に希望しません」
あまりにも素っ気ない返答に、温厚な医師も気圧されたように押し黙り、診察室には微妙な静けさが満ちた。
恐らく医師もその場に居合わせた看護士も、有喜菜がこの妊娠を心から歓んでいるわけではないと察していたはずだ。が、一度目の試みでの成功という幸運に酔いしれている紗英子には、有喜菜の固い表情に気づくゆとりはなかった。
診察室を出た後も、紗英子はまだ夢の中をふわふわと漂っているような気分だった。会計を済ませ、有喜菜とクリニックの玄関を出ると、二人は何となくぶらぶらと歩いた。建物を取り囲む庭園を抜けると、ほどなく湖に行き当たる。
国内でも十位以内に入るという大きさの湖は今日もよく澄んでいた。ちょっと見には滋賀県の琵琶湖を連想させるようだ。蒼く澄み渡った空と水平線が混ざり合い、どこからが湖なのか判別がつかない。
カモメが白い翼をひろげて蒼い空を旋回している。真っ白なカモメまでもが空の色に染まりそうなほど鮮やかなブルーだ。