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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
 果てのない空を仰ぎながら、自分は多分、この日に見た空を忘れはしないだろうと紗英子は思った。先刻見たばかりのクリニックの庭園には、寒桜が早くも満開になっていた。桃色の愛らしい花をを眺めて通り過ぎ、考えてみれば、今朝、クリニックを訪れたときの自分は寒桜も何もけして眼に入ってはいなかったのだと改めて気づいた。
 それほどに今日の診断結果は紗英子の頭を占めていたのだ。当然といえば当然かもしれないけれど、今日まで自分がいかに治療のことしか考えていなかったのかと思い知らされた気分だった。
 むろん、医師の言うように、まだまだ油断するべきときではなく、もしかしたらこの歓びがぬか喜びに終わってしまう可能性だってあることも理解はしているつもりだ。
 しかしながら、体外受精の中でも更に高度な顕微授精、しかも代理母の子宮に受精卵を戻すという大変難易度の高い治療が初回で成功する―それがどれほど稀有で幸運なことかも判っていた。
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