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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
 かつて紗英子自身が受けた三度の体外受精でも経験済みなように、体外受精とうのはむしろ成功する確率の方が極めて低いのである。上手く行くカップルは大抵、一度目でなくても二度め、三度目くらいで成功するし、それで成功しなければ何度高額な治療費をかけて試みても成功はしないといった無情な側面がある。
 大概の夫婦は数度試した段階で、治療を断念する。というより、せざるを得ないのだ。不妊の原因が例えば病的なものである場合の治療そのものに保険は効くけれども、体外受精にはきかず、すべて自費で支払わなければならない。一度が五十万単位の高額医療をそう何度も試せるはずがない。
 もしかしたら何度でも挑戦し続けたら、その中には成功するかもしれなくても、よほどのセレブでもない限りは経済的に続けるのは困難なため、諦めるしかないのだ。それが現在の不妊治療の限界でもあった。
 紗英子は今、幸福の絶頂にいた。不思議で堪らない。これまでは―特に子宮を摘出してしまって以降、自分は無色の世界に生きていたようなものだった。花の色も鳥の姿も、自分には何の色も持たず、ただモノクロの世界で機械的に呼吸し、何の意味もなく動いて無為に日々を過ごしているだけだった。
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