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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 改めて鏡を覗き込むと、幾分かはマシに見えた。髪の毛も艶がなく、ぱさついているが、これも病み上がりだから、仕方ない。艶だしスプレーをふり、念入りにブラッシングして緩くシニヨンに結い上げた。
 最後にお気に入りの髪飾りをつけて終了。これも何度目かの結婚記念日に、直輝がくれたものである。スワロフスキーが贅沢に散りばめられたリボン型のバレッタはかなり高価な買い物についただろう。
 念のためにもう一度、鏡に映った自分をチェックし、慌ててマンションを飛び出た。
 待ち合わせ場所は、有喜菜が紗英子の体調を配慮して、近くにしてくれた。マンションの前に大通りを挟んでカフェーがある。パリのオープンカフェを彷彿とさせる、なかなかオシャレな店である。現に、何度か女性誌の記者が取材に来て紹介されたことがあるという人気の店だ。
 そのため、いつ行っても、外のテラス席には人が満員で、店内も溢れんばかりの客が入っている。
 今は十二月、いうなれば真冬だが、昼過ぎのこの時間は小春日和で、陽射しも温かだ。そのせいか、外のテラス席もほぼ満員である。紗英子は視線をさ迷わせ、友の姿を探した。
 と、テラス席のいちばん奥から賑やかな声が聞こえた。
「ここよ、ここ」
 見ると、二人がけのテーブル席から有喜菜が手を振っている。
「待った? ごめんね、支度に手間取っちゃて」
 そう言いながらも、紗英子は有喜菜の全身に素早く視線を走らせる。こういう場合、たとえ長年の気心の知れた友人でも、女同士の眼は容赦がない。たとえ表情や口には出さなくても、心の中では何を考えているか知れたものではない。
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