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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 そして、この瞬間、紗英子は〝負けた〟と思った。
 元々、有喜菜はモデル張りのプロポーションをしている。八頭身の恵まれたスタイルに、派手な顔立ちは人眼を引くには十分すぎる。
 ただ一つ難をいえば、学生時代は色気とか女っぽいという言葉とは全く無縁だったことだろう。いつもショートヘアにテニス部のジャージ姿で、ちょっと見には男の子と間違えそうな雰囲気だった。また実際に、書店とか行って店員さんに本のありかなど訊ねると、
―ボクねぇ―、悪いんだけど、その本は今、在庫がないんだよ。
 と、男子学生と間違えられることはしょっちゅうだったといつも笑い話のように打ち明けていたものだ。
 しかし、あれから実に二十三年の月日が経っている。当時はギリギリまで短く切りそろえていた髪は肩につくくらいのセミロングになり、筋肉質で痩せぎすだった身体には女盛りの豊満さがプラスされていた。
 元々スタイルが良いので、まさに〝良い女〟の見本のようでもある。今日の有喜菜は白いシャツブラウスに、膝上の黒のタイトスカート。今は暑いのか、上に羽織っていたらしい黒のジャケットは脱いで椅子の背に無造作に掛けてある。
 髪は下品にならない程度に明るいブラウンに染め、ふんわりとカールさせているし、化粧はナチュラルでいながら、元の顔立ちが派手なので十分に妖艶で美しい。
 病み上がりだから、その分はマイナスになるのは仕方ない。が、それを差し引いたとしても、あまりに今の自分とは違いすぎた。つまり、認めたくはないが、有喜菜の方が数段も良い女っぷりなのだ。
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