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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第7章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
 その夜、有喜菜は自室に籠もり、長い間、物想いに耽っていた。ベッドに仰向けに寝転がり、天井を眺めていると様々な想いが空をよぎる雲のように急ぎ足で流れてゆく。
 有喜菜の手には愛用の携帯電話が握りしめられている。もうかれこれ二時間余り、有喜菜は二つ折りの携帯を閉じたり開いたりを繰り返していた。
 有喜菜の耳奥で紗英子の必死な声音がこだまする。
―無闇に売薬を飲んだりして、お腹の子どもに何かあったら、どうするつもり?
 今日の紗英子はいつもにも増して不安定だった。特に有喜菜の行動のすべてが気になって仕方がないように見えた。昨日は昨日で待望の妊娠が判明して、躁状態になっていたようだが、今日は一転して鬱に入っていたようだ。
 まあ、紗英子の気持ちが判らないわけではない。代理母出産という異例中の異例ともいえる選択をし、一度で成功することは極めて難しいとされるにも拘わらず、有喜菜は奇跡的に妊娠した。子どもを欲しいという紗英子の一途さはよく理解しているだけに、その歓びが尋常ではないだろうことも察しはつく。
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