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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 それはやはり、結婚以来、ずっと家庭に閉じこもりきりで、考えることといえば、子どものことくらいしかなかった紗英子との環境の違いでもあるだろう。
 有喜菜は二十六歳で結婚後も、独身時代から続けていた不動産の会社の事務員をしていた。そういう意味では、ずっと社会に出て働いていたのだ。離婚の原因は夫の酒癖の悪さだと聞いている。普段は大人しい男なのに、酔うと些細なことで腹を立て暴力をふるうらしい。
 紗英子も何度か有喜菜の夫だった男に逢ったことがあるけれど、確かに暴力などふるうとは俄に信じられないような小心そうな男だった。しかし、そういう普段は大人しすぎるほど大人しい男ほど、内面にはストレスをため込んでいるともいえる。
 有喜菜の夫の場合は、それが酔うと暴力という形で出ていたのだろう。紗英子自身、有喜菜が夫に殴られたのだといって顔や手を腫らしていたのを見ているのだから、有喜菜が嘘を言っているとは思えない。
 ついに有喜菜も我慢の限界が来て、四年前に離婚するに至った。有喜菜も子どもには恵まれなかったが、紗英子の場合とは根本的に違う。有喜菜は五年間の結婚生活で三度妊娠している。一度目は三ヶ月で流産し、二度目は六ヶ月で死産した。妊婦検診の前日までは元気に動いていた胎児が急に動かなくなったのだという。
 これはおかしいと受診したのは、丁度、定期の検診の日に当たっていた。受診した時、まだ胎児の心臓は動いていた。
―かなり弱っていますが、まだ心臓は動いています。
 医師はエコーを通して胎児の心臓を指しながら、言ったそうだ。
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