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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅦ(再会)♦
しかし、物問いたげな直輝を無視して、有喜菜はつと立ち上がった。
片隅のグランドピアノまで行くと、マスタ―に了解を得てから、ピアノの前に座る。ほどなく、〝Candle Light〟の旋律が緩やかに流れてきた。
誰の曲か忘れたが、有名な作曲家が作ったインストゥメンタルの曲である。ライトが照らす蒼白いカクテルバーで向かい合う男女二人、その二人の顔を照らすテーブルのキャンドル・ライト。ごく自然にそんな情景が浮かび上がってくるようなムードのある、それでいて、どこか哀切な響きの籠もった曲調だ。
それにしても、今夜は愕きの連続だ。有喜菜は中学時代、テニス部に所属しており、エースとしてならしていた。県大会で準優勝の実績もあり、スポーツ万能というイメージが大きかったのだけれど、まさかピアノもプロ顔負けの演奏をするとは知らなかった。
考えてみれば、自分は有喜菜について果たして、どれだけのことを知っていたのだろう。
すぐ近くにいながら、紗英子と付き合いだしてからは有喜菜は遠い存在になった。お互いに何でも知り合っていると思い込んでいたけれど、その実、直輝は有喜菜について何も知らない。
片隅のグランドピアノまで行くと、マスタ―に了解を得てから、ピアノの前に座る。ほどなく、〝Candle Light〟の旋律が緩やかに流れてきた。
誰の曲か忘れたが、有名な作曲家が作ったインストゥメンタルの曲である。ライトが照らす蒼白いカクテルバーで向かい合う男女二人、その二人の顔を照らすテーブルのキャンドル・ライト。ごく自然にそんな情景が浮かび上がってくるようなムードのある、それでいて、どこか哀切な響きの籠もった曲調だ。
それにしても、今夜は愕きの連続だ。有喜菜は中学時代、テニス部に所属しており、エースとしてならしていた。県大会で準優勝の実績もあり、スポーツ万能というイメージが大きかったのだけれど、まさかピアノもプロ顔負けの演奏をするとは知らなかった。
考えてみれば、自分は有喜菜について果たして、どれだけのことを知っていたのだろう。
すぐ近くにいながら、紗英子と付き合いだしてからは有喜菜は遠い存在になった。お互いに何でも知り合っていると思い込んでいたけれど、その実、直輝は有喜菜について何も知らない。