この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
ああ、何てデリカシーの欠片もない男なの! たった今、女として最も大切なものを失った妻にかける言葉は、そんなものしかないの?
何故だか、直輝と話していると、余計に苛々として気分がささくれ立っていく。
「看護士さんを呼んでこようか?」
顔を背けた紗英子になおも直輝は優しい声で問うてくる。
ああ、何て苛々する男。こんなときにかける適当な言葉すら思いつかないなんて。
紗英子は内心、うんざりとしながら呟く。
「一人にしておいてくれない?」
「え、何だって? 声が聞き取れないんだ」
もう、良い加減にして。こんなときに大声が出せるはずがないでしょう。
傷が痛まないわけではない。気分が良いはずがない。何しろ子宮一つをすべて摘出するという大手術を経験した後なのだ。
だが、そんな身体的な不調など、心の痛みに比べれば何でもなかった。傷の痛みより、今は心の痛みの方がよほどこたえている。そんなことに、何故、夫でありながら気づいてくれないのか?
大きな声を出せば、まだ縫い合わせたばかりの傷に響く。そんなこともこの男には判らないのだろうか。
「一人になりたいの」
今は誰にも話しかけられたくない。
紗英子の眼から熱い涙の滴が溢れた。
「紗英―」
直輝の分厚い手のひらが肩に乗せられる。
思わず振り払いたい衝動を堪え、紗英子は低い声で繰り返した。
「お願い、今は話しかけないで。私の精神状態って、多分、普通じゃないと思うから。一人になって少し考えたいの」
何故だか、直輝と話していると、余計に苛々として気分がささくれ立っていく。
「看護士さんを呼んでこようか?」
顔を背けた紗英子になおも直輝は優しい声で問うてくる。
ああ、何て苛々する男。こんなときにかける適当な言葉すら思いつかないなんて。
紗英子は内心、うんざりとしながら呟く。
「一人にしておいてくれない?」
「え、何だって? 声が聞き取れないんだ」
もう、良い加減にして。こんなときに大声が出せるはずがないでしょう。
傷が痛まないわけではない。気分が良いはずがない。何しろ子宮一つをすべて摘出するという大手術を経験した後なのだ。
だが、そんな身体的な不調など、心の痛みに比べれば何でもなかった。傷の痛みより、今は心の痛みの方がよほどこたえている。そんなことに、何故、夫でありながら気づいてくれないのか?
大きな声を出せば、まだ縫い合わせたばかりの傷に響く。そんなこともこの男には判らないのだろうか。
「一人になりたいの」
今は誰にも話しかけられたくない。
紗英子の眼から熱い涙の滴が溢れた。
「紗英―」
直輝の分厚い手のひらが肩に乗せられる。
思わず振り払いたい衝動を堪え、紗英子は低い声で繰り返した。
「お願い、今は話しかけないで。私の精神状態って、多分、普通じゃないと思うから。一人になって少し考えたいの」