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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
 直輝から大きな溜息が洩れるのが判った。
「判った。少し外を歩いてくるよ。でも、もし具合が悪くなったら、すぐに看護士さんを呼ぶんだぞ?」
 直輝はそれでもまだ紗英子を気遣いながら、病室の外へと出て行った。
 優しい夫、妻を気遣う夫。直輝の姿はむしろ当然のことだろう。むしろ自分の荒れ狂う感情のままに、他人に八つ当たりする紗英子の方が非難されるべきだ。
 しかし、紗英子は自分を止められなかった。これで、また直輝に一つ負い目を感じることが一つ増えた。そう思うだけで、やりきれない想いになる。
 紗英子は糊の効いた清潔な枕に大粒の涙を零しながら、これまで自分が辿った長い歳月を記憶に甦らせていた。
 紗英子と直輝が結婚したのは忘れもしない二〇〇〇年の十二月、クリスマスも近いある日のことだった。その年はミレニアムと呼ばれ、その記念すべき年に出産したいと望む女性が多かったらしく、前年まで下降の一途を辿っていた出生率がその年に限って上昇したという。
 そんな年に、紗英子は結婚生活のスタートを切った。だが、歓びは長く続かなかった。
 結婚して三年が過ぎても、紗英子は妊娠しなかった。通常、二年以内に妊娠の兆候がなければ、不妊症とされる。紗英子は子どもはどうしても欲しかったから、病院に行くことに抵抗はなかった。
 が、夫の直輝は違った。二人ともにまだ二十代半ばであったことも関係したのだろう。直輝は頑なに病院へ行くことを拒んだ。
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