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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第10章 ♦RoundⅧ 予知夢~黒い霧~♦
「―」
 その科白に、紗英子は息を呑んだ。
 夫の顔を見ても、その整いすぎるほど整った面には最早、何の感情も浮かんではいない。その事実が何より物語っていた。既に直輝の心は自分から離れてしまっていることに―。
 そして、紗英子は気づいたのだ。このすべてを諦め切ったような哀しげな静けさは、かつて、有喜菜が紗英子に見せたものに似ていると。
 妊娠が判った日、有喜菜が湖にはるかな視線を向けながら、ひっそりと纏っていた静謐さに通ずるものがあった。もしかしたら、直輝と有喜菜はとても似た者同士なのかもしれない。魂の奥深い部分での同士とでも言えば良いのだろうか。
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