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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第10章 ♦RoundⅧ 予知夢~黒い霧~♦
 その日は一旦、N町のマンションに戻った。有喜菜はまだ面会謝絶で、逢えるような状態ではなかった。輸血もしたとかで、数日は安静が必要だと担当医から説明を受けた。
 有喜菜に逢うまでに数日の間を持てるのは、紗英子にとっても幸いなことであった。今日、直輝に別離を切り出されたままで逢ったとしたら、きっと有喜菜をとことんまで責め、罵倒してしまったに違いない。この数日間で、紗英子も自分なりに今の状況を把握し、受け容れることが幾ばくかでもできるはずだ。
 当然ながら、マンションに直輝の姿はなかった。予め覚悟していたことではあるけれども、まだ一縷の希望に縋っていたのに、それもすべては粉々に打ち砕かれた。
 クローゼットからは、直輝のめぼしい衣装はすべて消えていた。紗英子が帰宅するまでに彼もこちらに戻り、身の回りのものを整理して持ち出していったのだ。
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