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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 現に、彼女は何度も〝元気そうで良かった〟と繰り返していた。昔から紗英子と違い、有喜菜は裏表のない質だ。紗英子は時折、自分でも嫌になるくらい、本音と建て前が違うことがある。心で幾ら相手を嫌っていたとしても、その人の前にいざ出ると、笑顔で心にもないお愛想を言ったりする。
 有喜菜はそんな腹芸はできない。思ったことはいつもストレートに口にするし態度にも出すから、結構敵もいた。もっとも、彼女は弱い子や困った子も放っておけなくて、いつも世話を焼いていたし、いじめられっ子を見つけようものなら身を挺して庇っていた。だから、有喜菜のことをよく言わない子も少数ではあったがいたけれど、その分、大勢の友達に信頼され、慕われていた。
 有喜菜の他には友達らしい友達もいなかった紗英子とは大違いで、有喜菜の周囲には男女関係なく常に人が集まっていた。俗に言うカリスマ性があるというのだろうか。男子にでも平気で溜め口で喋る有喜菜を男子生徒たちもまた女子扱いせず、男の子のように接していた記憶がある。
 そんな有喜菜が納得できる理由もなしに見舞いにこなかったはずはない。彼女の言うように本当に忙しかったのだろうし、たとえそうではないにせよ、気を遣ったのだろう。そういうところは、直輝と有喜菜はよく似ている。他人への気配りができるというのか。それは両親が年老いてからやっと恵まれた一人っ子であった紗英子にはない点だ。
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