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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
「おばちゃん、今日ね、ちさちゃんのお宮参りの写真を撮ってきたの。あそこの写真スタジオでね―」
大人たちの間に漂う気まずさなど頓着せず、拓也が紗英子に話しかける。
「拓也! 余計なことは話さなくて良いの。それでは、私たちは先を急ぎますもので、失礼します」
母親は、まだ何か話したそうにしている拓也の手を握ると、一礼して足早に通り過ぎていった。父親の方が申し訳なさそうに頭を下げ、赤ん坊を抱いたまま後を追いかける。
宮参りの写真、か。
それで皆、盛装していたわけだ。母親に至っては淡いベージュに花模様の訪問着だったし、父親の方も背広姿、拓也も子ども用のスーツを着ていた。
この地下街には、こじんまりとした写真スタジオも入っている。恐らくは、そこで宮参りの写真を撮ってきたに違いない。最近はこういう家族の記念写真を撮るのがブームで、どこの写真館も力を入れていると聞く。紗英子の友人たちから毎年、正月に送られてくる年賀状にも、明らかに写真館で撮ったらしい記念写真がよく使われていた。
紗英子は重い溜息をついていた。
母親のあの失礼な態度にも腹が立たないわけではなかったけれど、むしろ傷ついたのは、眼前に突きつけられた家族のいかにも幸せそうな光景だった。
大人たちの間に漂う気まずさなど頓着せず、拓也が紗英子に話しかける。
「拓也! 余計なことは話さなくて良いの。それでは、私たちは先を急ぎますもので、失礼します」
母親は、まだ何か話したそうにしている拓也の手を握ると、一礼して足早に通り過ぎていった。父親の方が申し訳なさそうに頭を下げ、赤ん坊を抱いたまま後を追いかける。
宮参りの写真、か。
それで皆、盛装していたわけだ。母親に至っては淡いベージュに花模様の訪問着だったし、父親の方も背広姿、拓也も子ども用のスーツを着ていた。
この地下街には、こじんまりとした写真スタジオも入っている。恐らくは、そこで宮参りの写真を撮ってきたに違いない。最近はこういう家族の記念写真を撮るのがブームで、どこの写真館も力を入れていると聞く。紗英子の友人たちから毎年、正月に送られてくる年賀状にも、明らかに写真館で撮ったらしい記念写真がよく使われていた。
紗英子は重い溜息をついていた。
母親のあの失礼な態度にも腹が立たないわけではなかったけれど、むしろ傷ついたのは、眼前に突きつけられた家族のいかにも幸せそうな光景だった。