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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 紗英子にとって、セックスはあくまでも子どもを持つための手段にすぎず、子宮を失い子どもを授かるという夢を永遠に手放した瞬間、最早、何の意味も価値もない浅ましいだけの行為になってしまった。
 つまりは、夫に対して、それだけの感情しか残ってはいないということでもある。もし仮に紗英子がまだ直輝を愛しているのであれば、直輝の言うことも素直に共感できたろう。
 彼の指摘はある意味では、正論ともいえる。セックスは何も子作りのためだけに存在するのではなく、夫婦間のコミュニケーション、愛情表現の一種でもある。誰もがそのとおりだと頷くに違いない。
 ただし、それは夫と妻が互いに愛し合い信頼し合っていればの話で、気持ちがとうに冷め切ってしまっているのであれば、また話も違ってくる。少なくとも、子どもを望んでいる間は、紗英子は直輝を夫として必要とし、愛していたはずだ。むろん、その必要としている気持ちの中で〝子どもの父親〟としての要素が大きく占めていたことは認める。
 それでも、まだ夫への想いは確かにあった。しかし、辛い不妊治療の過程で、幾度も直輝に背を向けられ拒絶されていく中に、紗英子の気持ちもまた直輝と同様に少しずつ冷えていった。
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