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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 恐らく、二人の気持ちは不妊治療を始めたときから、少しずつすれ違い、溝は深まっていっていたのだろう。だが、二人ともにそのことについては気づいていながら眼を背け、見ないふりをしてきた。だからこそ、辛うじて結婚生活の破綻を免れていたのだ。
 直輝の方は知らないが、紗英子に限っていえば、今夜の夫のひと言で気持ちも完全に冷えた。蔑まれていたというのもショックだったけれど、いちばん辛かったのは憐れまれていたという事実だ。
「出かけてくる」
 直輝が寝室のドアを開ける気配がした。
 紗英子は背を向け、ギュッと眼を瞑っていた。出ていきたければ出ていくが良い。あなたがいなくても、私は平気だ。
 子どもを持つ夢も失った今、これ以上、何を怖れることがある? もう、怖いものは何もない。
 直輝がどこへ行くかは大体、想像がついた。しかし、そんなことは考えたくもないし、考えるだけの価値もない。男が欲望を一時的に晴らす場所―例えば風俗などはこの小さな町にもごまんとある。
 まあ、それは紗英子の考えすぎかもしれない。直輝は元々、セックスにそれほど執着のある方ではない。妻に一度拒まれたからといって、すぐに風俗店に直行するほどこらえ性がない男ではなかろう。
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