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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
人工授精を十一回試みて何の成果も得られないまま、体外受精に挑戦することになった。当たり前のことだが、人工授精と体外受精ではその用いられる技術も費用も格段に違いすぎる。体外受精を三度ほど行ってもやはり妊娠はできなかったある日、直輝がポツリと言った。
―なあ、もう良いだろう?
最初、紗英子は夫の言葉の意味を図りかねた。
―何が良いの?
―子どものことさ。俺は別に子どもなんかいなくても良いんだよ。紗英子がいてくれれば、それで良いんだから。そりゃあ、人の親ってものにもなってはみたかったけど、ここまでしても無理だったんだ。やっぱり、そろそろ諦めた方が良いんじゃないかと思うんだ。お前だって、辛くて苦しい治療を続けるのは、しんどいだろう? 身体にだって、相当の負担がかかってるだろうし。
―なに、それ?
紗英子は悔しさのあまり、眼に涙を滲ませて言い返した。
―私はそんなのいやよ。赤ちゃんが欲しいの、絶対に欲しいのよ。諦めたりなんかしない。
大人しい直輝はそれきり、何も言わなかったけれど―、思えば、そのときから、直輝との関係が微妙に狂い始めたのだとの自覚は紗英子にもある。
―なあ、もう良いだろう?
最初、紗英子は夫の言葉の意味を図りかねた。
―何が良いの?
―子どものことさ。俺は別に子どもなんかいなくても良いんだよ。紗英子がいてくれれば、それで良いんだから。そりゃあ、人の親ってものにもなってはみたかったけど、ここまでしても無理だったんだ。やっぱり、そろそろ諦めた方が良いんじゃないかと思うんだ。お前だって、辛くて苦しい治療を続けるのは、しんどいだろう? 身体にだって、相当の負担がかかってるだろうし。
―なに、それ?
紗英子は悔しさのあまり、眼に涙を滲ませて言い返した。
―私はそんなのいやよ。赤ちゃんが欲しいの、絶対に欲しいのよ。諦めたりなんかしない。
大人しい直輝はそれきり、何も言わなかったけれど―、思えば、そのときから、直輝との関係が微妙に狂い始めたのだとの自覚は紗英子にもある。