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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第2章 RoundⅠ(喪失)♠
 その医師の言葉は、つまり、もう全摘しか道はないと告げているのも同じだ。それを聞いた日、紗英子は一晩中、泣き明かした。もう、自分に子どもを持てる道は一切、閉ざされてしまった。可愛い赤ちゃんをこの腕に抱ける日は永遠にめぐって来ない。
 いっそこのまま高層ビルから飛び降りて死んでしまおうかとも考えたくらいだ。でも、死ぬだけの勇気すら、なかった。結局、悶々している中に手術の日がやってきて、紗英子は今日、子どもを持つという望みを完全に絶たれた。
 長い長い、年月だった。二十八歳で不妊外来の門をくぐってから、実に七年の歳月を重ねていた。自分なりにできることはすべてしたし、夫が途中からは治療に反対なのも知りながらも、眼を背けてひたすら子どもを得られるべく努力してきた。その結果が、これなのか。
 自分は一体、この七年もの間、何をしていたのだろう。空しい可能性と希望に縋り、けして実らない努力に無駄な年月と金を費やしただけなのか。だとしたら、自分があまりに惨めで憐れに思えた。
 紗英子はグッと歯を食いしばり、低い嗚咽が大きくならないようにした。泣いたって、誰も同情なんてしてくれやしない。この世の中に、子どものできない夫婦はごまんといる。高額な治療を受けて妊娠できる幸運な夫婦もいれば、自分たちのように空しい結果に終わる人たちもいる。
 だが、だからといって、子どものいない夫婦のすべてが不幸だというわけではない。子ども以外にも生き甲斐を他に見出して生きてゆく夫婦も現実にはたくさんいるのだから。例えば、夫婦共通の趣味を持つとか、考え方は色々あるだろう。
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